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bluelines

女子大教員。大学教育・言語・ねこ・写真とカメラなどについて。

「英語熱」は一体どこが熱いのか

Twitterで知ったTEDトーク。何かもう色んな意味で困惑したので、ちょっと書いておきたい。

ジェイ・ウォーカーが語る世界の英語熱

で、id: elm200氏のはてなブコメ

TED の動画はどれも熱いのだが、この動画の熱さは尋常ではない。中国人たちの英語学習に賭ける情熱は異常。本当に多くの人に見てほしい動画。この動画を見終わったとき心が揺さぶられない人はいないだろう。

なんだかあまりに僕が感じることと違いすぎて、自分がおかしいのか世界がおかしいのか、もう訳わからん。

トークの中で紹介されているクリップで、中国の子どもたちが教師に続いて叫ぶ:

I want to speak perfect English! I want to change my life!

なんですかこれ。どこの自己啓発セミナーですか。子どもの将来を人質に取り、「英語ができなければロクな人生を歩めないぞ」と脅しつけて、やってることはどっからどうみても洗脳教育の一種である。これを見て、「心が揺さぶられる」とはどういうことなのか。僕の日本語能力に問題がなければ、多分ポジティブな意味で揺さぶられるんだろう。将来のメシを確保するためにこんな真似をさせられている中国の子どもたちの境遇に同情して、ではあるまい。

あるいは、ジェイ・ウォーカーが、この状況を"English is the world's second language"などとまとめようとする欺瞞について一体何を思うのだろうか。僕がその場にいたら、"Then what is YOUR second language?"とでも聞いてやりたいが。英語を第一言語とする人が、英語を第一言語とする聴衆に向かって、「英語こそがより良い未来への希望なのです」などということの醜悪さについて何も感じないのだろうか。アメリカのリベラル知識層(つまり、TEDに来るような人々)の多くは、自分が英語しか話せないことに幾許かの罪悪感とコンプレックスを抱いている。このトークは、そんな人々の自己正当化に手を貸し、「私達はこのままでいいんですよ」と囁きかけているのに、一体どうしてそんな既得権益者の馴れ合いに「心が揺さぶられて」いるのか。

あるいは百歩譲って、ジェイ・ウォーカーが言う「英語は、世界に共通の問題を解決するための共通語」を受け入れるとしよう。しかしあの中国の子どもたちは、決して「世界に共通の問題を解決するために」英語を学んでいるのではないのだ。「とある外国語の習得」という、極めて一面的な能力に基づいて人間が序列化される社会で、自分自身の生存を賭けて(正確には、賭けさせられて)戦わされているのだ。これ、「熱い」のか?ああやって叫んでいた子どもたちが、いずれたった一回の試験によって選別され、結果として何百何千万という敗者が生み出されるわけだけども、それを「熱い」と描写する感覚は何なのだ?


もう本当に、訳がわからないんです。ですので以下一般論。

前に増田でも書いたことなんだけど、僕は日本人の英語力向上とかどうでもいい。僕はただ、日本から英語で不幸になる人がいなくなるといいと思ってる。けれどいまどきの「グローバル」な方々が抱く危機感は、どうも僕なんかの想像もつかぬレベルなんである。彼らは「日本人は英語ができないと生き残れない!」と叫ぶ。そうやって自分の、あるいは他人の子どもを脅す。そして人々に英語に対する恐怖心とコンプレックスを植えつけ、英語教師の仕事をより困難なものにする。

僕はたまたまそこそこ英語ができるけど、それで英語ができない人を助けることができればいいと思ってる。そうやって助けた人の中で、「自分も同じように人を助けたい」と思って、英語を学ぼうとする人がぽつぽつ出てくれば最高だと思う。それで良くないか?何がいけない?英語ができなければ、できる人に助けてもらえばいい。助けてもらった分、自分にできる何かで返せばいい。英語以外の言語に関しては、皆当たり前にそうやってるじゃないですか。

だからですね、日本人にとって英語というのが、「人を助けるための手段」と認識されるようになればいいと思うんですよ。英語ができたら、ちょっとだけ「世のため人のため」になれる機会が増える、そういう能力だと皆が考え、人を助けるために英語を学ぶようになるといいと思うんですよね。グローバルビジネスの欠片も理解していない、「社会に出たこともない」おポンチ頭が夢想することですけども。子どもを脅し、競争させ、序列化し、たくさんの敗者とたくさんの不幸になる人間を生み出して、一握りの「英語ができる日本人」を育成する社会よりずっとマシだと思うんですけど。

僕ズレてるんですかね。もうわからないんです。