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写真をメインに、いろいろログ。

2023よかったシリーズ:マンガ

しかしマンガは凄い文化だね。毎年毎年本当に凄い作品が絶えず出てくる。

 

まどめクレテック『生活保護特区を出よ。』

舞台は近未来の日本、能力不振と見なされたものは「生活保護特区」に送られる。主人公フーカは高校の成績不振で特区送りになるが、そこでは独自の文化が発達していて、という話。ありがちなディストピア設定の話かと思っていたら、生活保護特区の「独自の文化」の描写が異様に奥深くて腰が抜けた。高校生の成長物語でもあり、メリトクラシー構造的差別を突き詰めた世界で人はどう行動するのか、というシミュレーションでもある。この後の展開も予測ができなくて楽しみ。

 

林史也『煙たい話』

同い年の男性同士で暮らしてます、恋人ではありません。それが、どこか人に言いにくい、説明しにくい関係とされてしまうことへの違和感が、こんなにちゃんとした物語になるんだ、という作品。計算なしの善意を社会がどう扱うかを赤裸々に描きはじめて、何もしていないのに不穏な空気が漂っている。

 

伊藤一角『8月31日のロングサマー』

たいへん素敵にしょうもないタイムループラブコメ。高校生男女が8月31日を繰り返す間に、というまあどっかで聞いたような設定の話なんですが、ヒロイン高木さんのちょっと打算的なとことかツッコミ上手なとことかがとてもよい。

 

カノンノショートショートショートさん』

ネットで小説書いてるアラサーオタク女子、何者かになりたいという強い思いがあるわけじゃないけど、でも誰かに知られたい、褒められたい。煎じ詰めればいまどきの自意識の話だけど、キャラがめっちゃかわいい。ショートさんの表情とか、ポーズの躍動感とかすごく好き。

 

ほそやゆきの『夏・ユートピアノ』

半人前のピアノ調律師と半人前のピアニスト、あるべき姿になりきれていない二人がすれ違って、少しだけ前に進む話。世界は自分をプロとして扱ってくるけど、そこにある基準に全然追いつかない自分に対する葛藤と、それでも仕事に向き合う覚悟とを、緻密で清潔な表現で描いている。

 

やしろ学『戦車椅子ーTANK CHAIRー』

今連載中のバトル物では一番好き。車椅子仮面ライダーなビジュアルとポップでスピーディーな画力、反則的に強いラスボス「先生」のキャラ造形などなど魅力的過ぎる。現在5巻まで出てますが、今後もこのテンションで走り抜けて欲しい。

 

奥田亜紀子『ぷらせぼくらぶ 新装版』

中学の教室、電車、机、窓際、出てしまった言葉と言葉にならない言葉を、ふわふわ浮いてぐりぐり回るカメラが全部をエモーショナルに捉える。この世代の愚かで残酷でしょうもない、思い出したくないのに思い出してしまうできごと達の間を、まるで音楽のようなリズムで引っ張り回されてしまう作品。

 

泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』

発達障害をテーマにした作品なのだけど、主人公たちにそういった名前をつけないところが良いと思います。「普通」が難しい高校生達が、医学のことばで「特殊」にカテゴライズされずに、普通の枠内でもがきながら成長する。反応を促す触媒は「友達」、いいじゃんいいじゃん。人間の善性を信じたくなるようなストーリー。

 

さのさくら『ただの飯フレです』

何度でも一緒に楽しくごはんが食べられる相手なのに、決して恋に落ちることはない。それはとても得難い奇跡的にレアな関係なのだけど、「ただの」になっちゃうところが不思議ですよね。恋愛する相手を見つけるほうがよっぽど簡単なのに、ごはんだけの関係はそれよりも価値が低いかのように扱われる。今後この二人が、恋愛の重力にどう向き合って行くのか楽しみ。

 

松本大洋『東京ヒゴロ』

こないだ全3巻で完結しました。松本大洋は「才能」を描いてきた作家ですが、いよいよ円熟してなるほどこうなるんだ、という作品。『ピンポン』のアクマや風間やスマイルが卓球を(あるいは、自分の卓球の才能を)諦めた後の世界のような。すべての才も人も人にとどまらないのに、でももう一度あの光を追いかけてみずにはいられない。一話一話の最後のページに描かれる東京の街の遠景が心底沁み沁みさせられる。

 

ことしもあと二日!明日はゲーム&ガジェット編!