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写真をメインに、いろいろログ。

2022年よかったシリーズ:本

「僕が2022年に読んだ本」ということで、2022年刊行とは限らない。

 

『複数の言語で生きて死ぬ』

自分のことばと自分の周りの人々のことばが唯一同じじゃない世界に関するエッセイ集。「一国=一言語」という幻想をデトックスするのにとてもよい。各章ごとにブックガイドがついてるのもとてもありがたい。

 

『逃亡テレメトリー

弊機!弊機!シリーズ最新作!収録されている短編『ホーム――それは居住施設、有効範囲、生態的地位、あるいは陣地』においてはメンサー視点の弊機が描かれるんですが、めっちゃ有能で忠実で寡黙で超かっこいい。これが頭の中ではグチグチ文句を言ってるんだと思うと改めて弊機は最高。

 

『蛇の言葉を話した男』

エストニアの森で暮らす少年。人々はキリスト教に教化されて村に移り住んでパンを食い、外国の騎士を崇拝する。少年一人また一人と失い、孤独になっていく。滅びる世界と運命を共にする少年の葛藤、絶望、闘争。各種奇想の数々に圧倒されるストーリーだが、特に終盤に登場するバーサーカーじいちゃんが圧倒的。

 

『親衛隊士の日』

元々「ソローキンはまたこんなイカれた本書いてしょうがないなあ」だったのが、ロシアのウクライナ侵攻で「よげんのしょ」に進化してしまった作品。実質ならず者の集団に過ぎない親衛隊に、西側世界と国交を絶ち中国に依存して帝国をやっている架空ロシアのドグマがいかに倫理的な拠り所を付与するのか、絶望的な洞察が描かれている。

 

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

「一番面白いSF」ってことでいいんじゃないでしょうか。男が密室内で目を覚ます、記憶はない。ここはどこだ?自分は誰だ?答えが見つかると次の問いが生まれ、世界はどんどん広がり、運命と使命とバディとが交錯して宇宙になる。最初から最後まで気絶するほど面白い。

 

『異常【アノマリー】』

設定は現代SFだが、言葉遣いは伝統ヨーロッパ文芸的で不思議なテクスチャ感を持つ作品。「タイムパラドックスが解消されない」という、今まで誰もやってないのがある意味不思議な設定で描かれる群像劇で、いい映画を見たような満足感がある。

 

『シナモンとガンパウダー

赤毛の女海賊船長が料理人を拉致し、船で自分のためだけに料理を作らせる、という設定だけでもう完全勝利な作品。冒険も戦闘も飯テロも宝塚トップスター的船長も編み物上手な怪力副官もてんこ盛りで満腹間違いなし。

 

『女子大で和歌をよむ: うたを自由によむ方法』

知ってはいるけど日常にはなかった伝統文化、和歌。とっつきやすい視点と語り口だけど内容はしっかり本格的で、「勉強になってる」感がすごく味わえる本。和歌で勉強する、というのはなんだかとても豊かな行為である気がする。

 

『読者に憐れみを ヴォネガットが教える「書くことについて」』

体裁としては文章指南の本なのだが、ヴォネガットのスタイルがどうしてあのスタイルになったのか、あれらの作品はどのように書かれたのか、を知るための本としても読める。引用されている過去作のフレーズ、手紙文、インタビューでの発言などがすごくいい。

 

『おとととい』

石田真澄が夏帆を撮った写真集。普通のタレント写真集には全く見られない距離感で、カメラを意識しながら写真に写ろうとしていない夏帆の姿が収められている。話しかけずに、「きれいなひとだなあ」と思いながら見ているような、そういう視点。

 

『いくつかある光の』

曖昧な関係の二人の間を彷徨う視線。「これが最後」と知ったときにその視線はこれまでになかった意味を帯びる。ほとんど全く言葉による説明がない物語は、あまりに饒舌に心をざわめかせる。たぶん人生で一番衝撃的だったポートレートです。

 

『Bernd & Hilla Becher』

Bernd & Hilla Becher

Bernd & Hilla Becher

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わたくしにとって神にも等しいベッヒャー夫妻の最新解説本。アーリーキャリアの作品とかタイポロジーシリーズの誕生と発展とか全てカバーしていて、まだ全部読めてはいないけど、持っているだけで幸せな本。

 

『Teaching the Pronunciation of English As a Lingua Franca』

英語を「イングランド語」ではなく「国際共通語」と捉えたとき、国際共通語としての英語を教える英語教育はどのように行われるべきなのか。各概念の位置づけと具体的なアイデアがわかりやすい文章でまとまっていて、とてもinspiringだった本。


「2022年」シリーズ、あと映画とマンガとゲームとガジェットで書く予定。