bluelines

本業は大学教員で言語学の研究者。このブログは最近殆ど写真ばかり。「まっすぐ撮る部」「ズームレンズ使えないマン」「全日本絞らない党」あたりでやっている。

リモート授業・会議における外付けマイクの意義

昨年度一年間、ほぼフルリモートで授業・会議をした経験と、その中で続けた試行錯誤の経験から、「PC内蔵マイクじゃなくて、外付けマイクを使いましょう」という話をします。

 

何で?

自分の音声に交じるノイズを減らすためです。ノイズまみれの音声は、聞いている相手に余計な負荷をかけ、ストレスを与え、疲れさせます。そういうことは起こらないほうがいいですね。ちなみにここで言う「ノイズ」は、自分と同じ空間で鳴っている、自分の声以外の様々な音、とします。回路の内部で発生する電気的なノイズについては取り上げません。

 

何で外付けマイクなの?

理由は大きく二つあります。

(1) マイクを口に近づけて使うことができる

マイクが拾う環境ノイズの音量を下げる最も単純で効果的な方法は、「マイクを口に近づけて使う」です。以下の図を見てください。

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例えば、ステージ上で歌手が歌ってる状況を思い浮かべてください。殆どの歌い手は、口にベタ付けか、せいぜい拳一個分くらいの距離でマイクを使っています。あれは(=あの距離を前提にしたマイク感度は)周りの音を拾わないためにはすごく有効なんですが、マイクが独立の物体であるからこそできることです。あれくらいPCに近づいて喋るとか、到底現実的ではないわけです。

(2) マイクの指向性を利用できる

PCの内蔵マイクは全指向性(無指向性)型で、どの方向からの音も同じように拾います。一方外付けマイクは単一指向性のものを選ぶことができます。

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単一指向性型マイクを口の近くで使うことは、圧倒的に効果的にノイズの音量を下げます。そして同時にこれは、どんなに高額なマイクであっても、適切に使用しなければ意味がない、ということでもあります。せっかくちゃんとしたマイクを買っても、騒がしい部屋で距離を離してノイズ音源と自分が同じ方向になるような使い方をすると、収録される音声はノイズまみれになります。Amazonの商品レビューとかには、しばしばそのような使い方をした(であろう)人の「ノイズが多い!」という不満が載っています。

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ノイズリダクションじゃだめなの?

「ノイズリダクション」と呼ばれる機能にはいろいろなものがありますが、基本的に「大きなノイズを消そうとすると、メインの音声に悪影響が出る」と思ってもらってかまいません。具体的には、声がブチブチ途切れたり、三十年前のトランシーバーみたいにガビガビの音になったりします。これではノイズが消えても結局聴きにくいので意味ありません。まずは、マイクが拾うノイズを最小限にすることが重要です。

 

じゃあ、どんなマイクがいいの?

選択に関わる要因は色々あります。思いつくまま並べてみます。

自分がいる場所のノイズ量
例えば防音スタジオに一人でいるのであれば、ノイズの問題は殆ど発生しません。マイクから数メートル離れたって(それなり大きな声を出せば)平気です。自宅の部屋ならば、エアコンや換気扇を切るなどの対策も可能です。でも共用オフィスとか、学校の教室とかだと、自分の意志ではどうにもできないノイズの音量が非常に大きくなりがちです。特に大学の大教室は、大きなエアコンやプロジェクターや換気扇のファンが唸りを上げてたりしますので、場合によっては非常に騒がしい環境になります。大雑把に言えば、「使う場所が騒がしいほど、「いい」マイクが必要」という感じです。

自分が話している時間の長さ
電話みたいな感覚で、ちょっと相手と話すくらいならば、電話くらいの音質で構わないわけです。が、授業とかセミナーとかで、相手に長時間自分の音声を聞かせ続けるのであれば、その音声はノイズレスでクリアなものでなければなりません。

どれくらい動きたいか
個室のデスクで使うマイクなら、基本的にスタンドやマイクアームに据え付けてしまっても十分でしょう。しかし例えば、教室からハイブリッド授業を行う、などというケースだと、もう少し動き回りたくなるかもしれません。その時、自分と一緒にマイクが動いてくれないといけないわけです。

自分の声は聴いたほうがいい
喋りながら自分の声を聴くことを「モニタリング」と言いますが、これはやったほうがいいです。講義などで長時間喋る場合は特に重要です。モニタリングをすることで、マイク音量を適切に調節したり、ノイズレベルを確認したり、自分の声がちゃんとマイクを捉えているかを確認したり、自分の声量を一定に保ったりするのに役立ちます。モニタリングはできないマイクがあります。正確には、PCの設定でマイク入力の音をPCで再生できるので、どんなマイクも自分の声を聴くことはできるのですが、その場合再生される音声に遅延が生じるのです。やってみるとわかりますが、「遅れて聞こえてくる自分の音声を聴きながら喋る」というのは異常に難しく、頭が破裂するかもう純粋に言葉が出てこなくなるかのどっちかです。

無線と有線
専用のワイヤレストランスミッターとマイクのセットは安定してますが値段が張ります。Bluetoothのワイヤレスはブチブチ途切れたり雑音が入ったり接続が切れたり、ということが起こりがちです(機器の組み合わせによるので一概に言えないんですが)。僕は「仕事では有線」派です。

コンデンサーかダイナミックか
一般的なマイクには、「コンデンサーマイク」と「ダイナミックマイク」があります(真空管マイクとかリボンマイクとかは一般人が使うものじゃないので無視します)。猛烈に大雑把にその特徴を述べますと、ダイナミックマイクは比較的環境ノイズを拾いにくいですが、その分マイクの「スイートスポット」が狭いので、自分の声をちゃんと入れるためにはマイクとの距離角度をきっちり固めなければいけません。コンデンサーマイクは感度がいい分環境ノイズを拾いやすいですが、その分マイクと自分の距離角度については比較的融通が聞きます。これまた凄い大雑把に用途をまとめると、「静かな場所で録るならコンデンサー、騒がしい場所ならダイナミック」でしょうか。僕はどちらかと言えばダイナミックマイクをお勧めします。ノイズを拾いにくいこと、感度が比較的低いからこそ「マイクを口の近くに置いて話す」という基本を身につけるのに役立つことが理由です。

 

具体的ソリューション

値段の安い順に並べます。

CLASSIC PRO CPH200

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まず何よりも安い。そして十分実用的。マイク部分は無指向性ですが、口のすぐ側で固定できることのアドバンテージは大きいのです。このヘッドセットについてはライブ配信でレビューしたので、詳しくはそちらをどうぞ。

youtu.be

 

BEHRINGER UM2 マイクセット

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多くのマイクはアナログ信号を出力しますが、これをデジタルに変換してPCに入力する機器を「オーディオインターフェイス」と呼びます。BEHRINGERのUM2は、オーディオインターフェイスとしては格安ながら最低限機能の機能は果たすと定評があります。このセットはUM2に激安(でもちゃんと使える)マイクのCM5、マイクケーブル、マイクスタンドをセットにしたものです。上のヘッドセットCPH200と比べて、これを使うと手元でマイク音量を調整できたり、自分の音声をモニタリングできたりしますし、将来的に違うマイクを買ってもインターフェイスは使える、長いケーブルを買えば結構歩き回りながらでも使える、などなどの利点があります。欠点は嵩張ること。

 

RODE VideoMicro

【国内正規品】RODE ロード VideoMicro 超小型コンデンサーマイク VIDEOMICRO

【国内正規品】RODE ロード VideoMicro 超小型コンデンサーマイク VIDEOMICRO

  • 発売日: 2015/10/27
  • メディア: エレクトロニクス
 

商品としてはカメラに載せて使うためのものなんですが、PCの3.5mmジャックに直接繋ぎ、机上三脚に載せて口の近くに置いて喋れば結構優秀な机上マイクになります。デッドキャット(もこもこのカバーです)が付属していて、これを被せたらポップノイズ(パ行・バ行の破裂音を発音した時に、マイクに「ボフッ」という空気音が入る現象)が完全に無くなります。

 

SAMSON Q2U

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上のUM2セットでは、「マイク→XLRケーブル→オーディオインターフェイス→USBケーブル→PC」という繋ぎ方をするのですが、これだと「マイク→USBケーブル→PC」と直結できます。机上がごちゃごちゃしにくい、という点に数千円の価値を見出すこともできるでしょう。

 

YAMAHA AG03

これはマイクではなく、オーディオインターフェイス/ミキサーです。上記のUM2は、オーディオインターフェイスとしては最低限の機能しか持っていません。それに対してAG03は、「自分の声以外の音を鳴らしたい」という場合に非常に便利な機能をたくさん持っています。PC上で鳴っている音を自分の声と混ぜてもう一度PCに入力する「ループバック」機能や、スマホや携帯音楽プレイヤーなどを繋いでそこから出す音を自分の声と混ぜてPCに入れる機能などが便利です。「オンラインで生で喋りながら、任意のタイミング・ボリュームで自分の声以外の音も流す」ということをやる可能性があるのなら、最初からこの機種+任意のマイクにしておくのもいいかもしれません。

 

SHURE MV7

いきなり値段が上がって申し訳ありませんが、このマイクは特筆すべきノイズ耐性を持っています。相当に騒がしい換気扇やエアコンが回っているような場所でも、それらの音を拾わずに自分の声だけをクリアに録ることができます。USBで直接PCにつなぐことも、XLRでオーディオインターフェイスやプリアンプ/プロセッサにつなぐこともできます。タッチパネルの音量調節/ミュートも便利だし、コンプレッサーや簡易的EQが使えるアプリもついてきます(ただし、これらの機能はUSB接続時のみ使えます)。

 

beyerdynamic DT297PVMKII

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高額、専用ケーブル必要(付属してない)、オーディオインターフェイス必須、と決して正面切ってお勧めできるような代物ではないのですが、しかしうっかり気の迷いで買ってみたらあまりに良かった。ので、どうしても触れておきたかった。ヘッドホン部分は元来定評のある同メーカーのDT250と同じものです。音質は、ヘッドセットとしては文句のつけようがないし、装着感も非常に良くて着けていて疲れない。マイク部分は単一指向性コンデンサーなんですが、びっくりするほど音がよくノイズを拾わない。環境ノイズだけでなく、自分の鼻息や息漏れ、ポップノイズなんかにも強いです。自分の中では、「あー、最初っからこれ買っとけば他の色々は要らなかったのでは」くらいの衝撃があります。物好きな方はどうぞ。

 

ハイブリッド授業とマイク
僕の勤務先大学では、来年度から本格的に「ハイブリッド授業」の運用が始まるようです。それに向けて色々テストをして改めて気づいたことは、「教室、すげえうるせえ」ってことです。いやマジで。プロジェクターの冷却ファンも、エアコンも換気扇も、自宅にあるものたちとは比較にならない轟音をあげます。自宅の静かな個室でオンライン授業やってた場合とはゲームのルールが変わる感じです。「教員が個人のPC持ち込んでzoom+内蔵マイクで授業やればいいだろ」とか考えてると結構な地獄が生まれる可能性があります。このエントリはどちらかと言えば一般の教員よりも、大学の設備を整備する役割を担ってる立場の人を意識して書いています。例えば教室をハイブリッド授業用にする機材を大学で導入するなら、教室全体から音を拾うマイクを天井から吊るしたりするだけでは、ノイズ地獄が発生する可能性があります(天井マイクは、音源からの距離という意味ではPC内蔵マイクよりも更に悪い)。それとは別に教員が使う個人用マイクを用意して、2系統の音声を簡単にオン/オフできるシステムを組むようにするべきです。もう一ヶ月しかありませんが、この一ヶ月で何ができるかは来年度の大学のあり方に結構致命的な影響を与えると思っています。