bluelines

女子大教員。大学教育・言語・ねこ・写真とカメラなどについて。

真似をする力

あけましておめでとうございます。ここんとこTwitterでだらだら書いてたことをまとめます。

例えばあなたが、新入社員に仕事を振ってみる、という状況。「この書類作っといて」という。「去年のやつがこれね。だいたいこんな感じで」と指示して。もちろん、その新入社員君が作ったものがそのまま使えるなんて期待していないわけです。ところが、出来上がったものはたいへん真っ当な仕上がりで、二、三箇所軽く修正すればもう使えるレベルだった、とする。すると、「お、こいつデキるな」と思うわけですよね。

その新入社員君は一体何ができたのか。渡された見本を見て、それを上手に真似して、全くのコピーではないけども、押さえておく点はきっちり押さえた書類を作ることができた、っていうことです。この「真似をする力」というものは、物凄く重要でとても応用範囲が広く、役に立つことこの上ない能力だと思うんです。そもそも、いわゆる「イノベーション」だって、真似をする力の応用であることが多いです。完全に0から1を創りだすのではなく、別の分野の良い部分を真似して自分の分野に取り込むことができればイノベーションになるわけです。例えばジョブズの仕事だって、そういう部分がとても多い。

上手く真似ができる新入社員君を見て、「お、こいつデキるな」と思うということは、真似をすることが決して簡単ではないことを示しています。素人が三ツ星レストランで食事して、その素晴らしい料理を自分で作れるわけじゃない。TEDで素晴らしいプレゼンをいくつ見ても、自分のプレゼンはなかなか良くならないものです。殆どの人にとって「真似をする力」は最初からあるものではなく、訓練を通してどうにか身につくものです。

じゃあ、どうやって訓練すればいいのか。これは、そもそも真似ができるというのはどういうことなのか、という問に繋がります。多分根本にあるのは、「良い見本を見たときに、その見本を良いものにしている要素を抜き出し、自分の創作物に移植できる能力」ということになるのだと思う。

心を動かすプレゼン、わかりやすい報告書、はっとする写真、革新的な研究、なんでもいいですけども、今の時代「良い見本」は有り余っていて、ほんの数クリックでいくらでも手に入ります。問題はそれをどう消化するか、です。どうやったら、良いものが良いものである理由を理解できるようになるのか。僕の専門分野からメタファーを引っ張り出せば、それは「文法」を見極める、ということです。つまり、良いものを良いものたらしめている抽象的な性質を認識する、「メタ分析能力」が必須となる。

メタ分析が直感的にできてしまう人はいます。つまり、自分でもなんでか説明できないけど、真似できてしまう、ってことです。しかしそれは限られた才能であって、誰もが持っているわけではない。だけれども、そういった才能に恵まれない人であっても、メタ分析をするための道具となる概念を与えられれば、飛躍的に進歩できると思うんです。

最近猛烈に感銘を受けた本、「ノンデザイナーズ・デザインブック」。これのどこが素晴らしいかというと、読者に対して、良いデザインを分析的に理解するための道具を与えているとこなんですね。「近接」「整列」「反復」「コントラスト」という、極めて簡単に使いこなせる四つの概念でもって、「どうしてこっちよりも、こっちのほうが良いデザインなのか」が理解できるようになる。これは例えば、料理をしようとする人に包丁を与えるようなものです。メタ分析をするための概念は、世界を自分の目的に合わせて切り分ける道具になります。

ここから得たインスピレーション:適切な「道具」を考案し、それを与えることによって、真似をする力とその奥にあるメタ分析能力を涵養することができるはず。これは僕にとって心躍る可能性です。教師が適切な概念を用いて教示すれば、それによって様々な局面で「使える」能力を育成できるってことだから。

というわけで2012年は、学生にどんな「道具」を与えたらいいのか、を死ぬほど考えていこうと思ったのです。とりあえずとっかかりはデザイン。デザイン能力の訓練には必ず「良い見本を見て、どうしてこれが良いのかを考える」「そこで考えたことを土台に、自分の持っている情報をどのように整理すべきかを考える」が含まれます。ここから、あらゆる局面に応用できる知的スキルを育成し得るのではないかと期待しています。